2019年7月1日より遺留分の取扱が変りました。
遺留分制度の変更の概要
1. 物権から金銭債権へ (改正法 第1046条第1項)
遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができるとされ、相続による物権変動を直接変更することは出来なくなりました。
これまで(旧法第1031条)は遺留分権利者は、遺留分を保存するのに必要な限度で、遺贈及び贈与の減殺を請求することができるとしていたので、後に代償金を支払って金銭的に解決を図ることがあるとしても、一旦は遺贈もしくは贈与による所有権移転の全部もしくは一部を変更する物件変動が先に発生するとしていたので、実態はともか物権変動の効果がなくなった点で、大きな変更と考える必要があります。
2.期限の許与
改正法第1047条第3項第5号 (新設)
裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払いにつき相当の期限を許与することができるとされ、遺留分侵害額を請求されても一定の時間的猶予が確保できることとなりました。
3.遺留分侵害額への算入の制限 (条文上期限を明示した。)
改正法第1044条第1項
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても同様とする。
改正法第1044条第3項
相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額」(婚姻若しくは養子縁組の為又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
※これまでは相続人に対する贈与については、運用上は判例により期間の制限がなかったことと比べ、条文上に明確な期限を明示した点が大きく異なります。
4.その他 (遺留分侵害額請求権の課税関係)
(受遺者が当該請求を受けたにも拘らず、相手方に支払う金銭が用意できずに相続財産である不動産の全部もしくは一部を交付するような場合)
・旧法では、当初の物件変動である相続による所有権移転を全部もしくは一部取り消すことになるので、改めての課税関係は生じませんでした。
ところが、改正法では遺留分侵害請求ではなく遺留分侵害額請求として金銭債権のみとされたので、物権変動を遡って変更するような効果は認められなくなりました。
その為、金銭に換えて不動産等を交付する場合は、遺留分侵害額に相当する金額で不動産を譲渡したことになり、譲渡所得が課税されることになりました。
仮に相続税の非課税枠内であっても、譲渡は相続とは直接関係なく当事者間の売買契約となみなされますので、別途譲渡所得として確定申告の対象となるようです。
結果として、所得税、翌年度の住民税、健康保険料その他様々に影響がでる可能性があります。
それに不動産取得税、登録免許税等についても相続としての減免を受けられなくなることが考えられます。
また不動産の取得時期についても、相続では被相続人が取得した時期を引継げますが、譲渡であれば新たな取得となり、例えば、不動産を譲受けた相続人がすぐ売却する場合には、短期譲渡として高い税率が適用されることも考えられます。
詳細については税務署もしくは税理士へご相談下さい。
・事業承継など経営者の相続の場合に、事業用不動産や株式などの所有権の変動により、事業継続に直接的な支障が発生することを抑制する効果が期待されます。